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人材育成の事例13選!有名企業からスタートアップまで成功施策まとめ

「従業員の育成や研修に、もっと効果的な方法があるのではないか?」
「人材育成に定評のある企業は、具体的にどんな取り組みをしているのだろう」

このように考えている方は、多いのではないでしょうか。

労働市場の流動化や働き方の多様化が進む現代において、企業の競争力の源泉は人材育成力にあります。

企業の競争力の源泉は人材育成力

とくに急激なビジネス環境変化への対応や従業員のエンゲージメント向上には、戦略的な人材育成が欠かせません。

この記事では、有名企業からスタートアップまで、人材育成に成功している企業の事例を幅広く紹介します。実際に現場で行われている研修プログラムや各種制度などの施策には、実践的なヒントが満載です。

自社の人材育成戦略立案に生かせる重要視点を、本記事からお持ち帰りください。

▼人材育成についてはテーマに合わせて下記で詳しく解説しています。

▼人材育成で大切なことについては下記にまとめています。

これからの人財育成で大切なこと 資料ダウンロード

目次[非表示]

  1. 1.人材育成に定評のある有名企業の事例
    1. 1.1.ソニー:社内公募と従業員主体の研修企画
    2. 1.2.パナソニック:職能別研修+タレントマネジメントシステム
    3. 1.3.リクルート:対話とフィードバックによるリーダー育成
  2. 2.スタートアップ・ベンチャー企業の人材育成事例  
    1. 2.1.メルカリ:評価と育成を紐づけた独自の評価制度
    2. 2.2.Sansan:部門横断のコラボレーションで社内連携強化
    3. 2.3. LIFE PEPPER:スピード優先の「超OJT」
  3. 3.社内研修プログラムの工夫が際立つ事例  
    1. 3.1.三越伊勢丹:販売スキルの見える化
    2. 3.2.三菱UFJ銀行:行動変容プログラム「CODO」
  4. 4.OJTを効果的に活用している事例
    1. 4.1.東京海上日動火災保険:計画的OJTと面談制度
    2. 4.2.ヤマト運輸:二人三脚の配送研修とメンタリング
  5. 5.リスキリングへの取り組みが秀逸な事例
    1. 5.1.日立製作所:段階的なDXリテラシー向上プログラム
    2. 5.2.KDDI:社内大学方式による集中育成
  6. 6.人材育成に成功している企業に共通している重要ポイント
    1. 6.1.OJTとメンタリングの体系化による早期戦力化と定着
    2. 6.2.従業員主体のキャリア開発支援と挑戦機会の提供
    3. 6.3.経営ビジョンに即した人材育成と成果の見える化
  7. 7.まとめ

人材育成に定評のある有名企業の事例

有名企業事例 イメージ

まずは、人材育成に定評のある有名企業の事例を4つ、ご紹介します。大企業の人材育成には長年かけて磨かれた独自の手法があります。

  1. トヨタ自動車:徹底的な現場研修と「職場先輩制度」
  2. ソニー:社内公募と従業員主体の研修企画
  3. パナソニック:職能別研修+タレントマネジメントシステム
  4. リクルート:対話とフィードバックによるリーダー育成

トヨタ自動車:徹底的な現場研修と「職場先輩制度」

トヨタ自動車株式会社では「人間がモノをつくるのだから、人をつくらねば仕事も始まらない」、「ものづくりは人づくり」という考え方を守り続け、OJT(On The Job Training:実地研修)を重視しています。

【トヨタの育成制度の特徴】

  • 職場先輩制度:
    入社後3年間は指導職以上の先輩社員が育成担当として付き、業務指導やキャリア相談、職場への適応支援を1対1で継続的に行います。教える側のモチベーションも高く維持されています。

  • 基礎固め研修:
    新入社員には、社会人としての基礎知識の習得やトヨタの思想・技術・所作の理解など、体系的に学べるカリキュラムが用意されています。

  • 早期戦力化の仕組み:
    新人が直面する課題に先回りして対応できるよう、先輩社員が定期的にフォローし進捗を確認します。定期的なアンケートなどで声を吸い上げ、人事施策へ織り込んでいく取り組みも行われています。

このような育成体制の結果、ベテランの知識・技術が若手に効率的に共有され、新人の離職抑制や立ち上がりの早さに効果を上げています。現場重視のOJTと体系的なカリキュラムにより、従業員の技術力と組織への帰属意識が高まっています。

出典:トヨタ企業サイト「トヨタ自動車75年史」トヨタ自動車株式会社「人材育成」

ソニー:社内公募と従業員主体の研修企画

ソニーグループ株式会社は、従業員の自発的な成長を促す独自の仕組みを確立しています。長年にわたり社内の人材流動性を高める制度を整備し、多様な経験を通じた人材育成を実現しています。

【ソニーの人材育成の特徴】

  • 社内募集制度(キャリアチャレンジ):
    1966年から導入されたこの制度は、従業員が上司の許可なく自由に社内求人へ応募できる仕組みです。制度開始以来、累計で8,000名以上の従業員がこの制度を利用して社内異動を実現しており​、50年以上にわたり社内で受け継がれる伝統的な制度です​。

  • 新人テーマ研修:
    新入社員に対し、入社直後から各自がテーマを決めて約半年間取り組み、成果を発表するプロジェクト型研修を行います。このテーマは自分の業務にも関連するものであり、企画から実装まで新人が能動的に進める主体性重視の内容になっています。

  • オープンな挑戦文化:
    ソニーグループの「チャレンジ精神」をDNAとして位置付け、さまざまな挑戦の場を社内に作っています。新規事業提案の機会や部門横断プロジェクトへの参加など、従業員が自己の可能性を広げられる土壌が整っています。

こうした制度により従業員の主体性と挑戦心を伸ばし、結果的に高いエンゲージメントと社内定着率につなげています。個人の意思を尊重した人材育成方針が、ソニーらしいイノベーション創出の基盤となっています。

出典:ソニーグループポータル 「採用情報 | 挑戦を後押しする制度」、ソニーグループポータル「研修をきっかけに新機能を考え、半年で開発。ソニーの新入社員が本気で取り組む『新人テーマ研修』とは。」ソニーグループポータル「採用情報|Sony's DNA」

パナソニック:職能別研修+タレントマネジメントシステム

パナソニック株式会社は「事業は人なり」という創業者の信念のもと、体系的な研修制度と戦略的な人材マネジメントを組み合わせた育成を行っています。階層別・専門別の両面から人材を育てる仕組みが特徴です。

【パナソニックの人材育成施策 】

  • 階層別・職能別研修体系:
    新入社員から経営層まで、階層ごとに求められるスキルを段階的に育成するプログラムを整備しています。若手向けの「パワーアップ研修」「グローアップ研修」から、管理職向けリーダーシップ研修まで、それぞれの段階に合わせた内容で専門性とチーム力を高めています。

  • タレントマネジメントシステム(TMS):
    グループ全体で人材を最適配置・育成するための仕組みを構築しています。各事業会社社長も参加するタレントマネジメント委員会で次世代リーダー育成や人材データの活用を議論・モニタリングし、戦略的な人材育成と配置を実現しています。

  • 能力・適性情報の一元管理:
    TMSにより従業員一人一人の能力や適性を組織的に把握し、計画的な育成や要職への登用を進めています。個別の育成計画と組織の将来ニーズを連動させ、人材の成長と会社の発展を同時に実現しています。

このTMSと専門研修の連携により、従業員の成長を企業成長に結びつける好循環が生まれています。人材の能力・適性情報を一元管理し、部門を越えた育成と配置最適化を実現しています。

出典:パナソニックグループ「人材育成と多様な人材の活用」

リクルート:対話とフィードバックによるリーダー育成

株式会社リクルートは、「フィードバックの文化」といわれる土壌があり、これが人材育成の基盤となっています。

【リクルートのフィードバック制度】

  • アップワードサーベイ:
    全マネジャーに対し半年ごとのアップワードサーベイ(360度フィードバック)を導入しています。メンバー(部下)からの評価を定期的に収集し、自身のマネジメント行動を多角的に自己点検できる仕組みになっています。

  • 三つの支援軸:
    マネジャーの関わり方を「ミッション遂行支援」「内省・自己理解支援」「コンディショニング支援」という3つの視点で評価しています。さらに基本姿勢として「一人一人の個を尊重する関わり」を設定し、多様性を認めるマネジメントを促進しています。

  • 対話とフィードバック文化:
    日常業務でも対話とフィードバックを重視する文化が根付いています。周囲からのフィードバックで自分では気づけない強みを発掘し、従業員同士が成長し合う関係性を構築しています。

このようなフィードバック文化により、リーダー層の自己変革を促し、結果としてマネジメント層の質向上や従業員エンゲージメントの向上につなげています。対話を基盤とした人材育成は、リクルートの創造性とイノベーション力を支える重要な要素となっています。

出典:リクルート「人材育成・成長支援」「リクルート流フィードバックとは? 大事なのは『受け止め方』」

スタートアップ・ベンチャー企業の人材育成事例  

ベンチャー企業の人材育成事例

次に、スタートアップやベンチャー企業の事例を見ていきましょう。既存の大企業とは異なる独自の人材育成アプローチが見られます。限られたリソースの中で最大限の効果を上げるための工夫と、スピード感のある育成手法に注目していきましょう。

  1. メルカリ:評価と育成を紐づけた独自の評価制度
  2. Sansan:部門横断のコラボレーションで社内連携強化
  3. LIFE PEPPER:スピード優先の「超OJT」


メルカリ:評価と育成を紐づけた独自の評価制度

フリマアプリ大手の株式会社メルカリは、評価と育成を密接に連携させた独自の人事制度を導入しています。創業当初から従業員の成長を後押しし公正に評価する仕組みづくりに注力してきました。

【メルカリの評価育成制度】

  •  OKRとバリューの2軸評価:
    会社全体と個人の目標を連動させる「OKR」と、従業員に求める行動指針である「バリュー」の2軸で評価する制度を採用しています。業績面だけでなく、企業文化にも合致した行動を評価・奨励する仕組みを構築しています。

  • 短サイクルフィードバック:
    四半期ごとに上司との1on1面談を繰り返し、短いサイクルで目標達成度とバリュー体現度をフィードバックします。頻繁なコミュニケーションにより軌道修正が早くなり、従業員の成長スピードが加速しています。

  • 評価結果の育成活用:
    評価結果を昇給・昇格だけでなく育成計画にも活用し、必要な研修機会や配置転換に反映しています。従業員一人一人の課題や強みに応じたカスタマイズされた育成プランを提供し、効果的な成長を促進しています。

こうした制度により、従業員は成長実感が得られ、組織へのエンゲージメントが向上しています。評価と育成の連動が優秀人材の流出防止にもつながり、メルカリの急成長を人材面から支えています。

出典:あしたの人事オンライン「メルカリ人事 石黒さんが教えてくれた『超成長企業の人事評価制度』」mercan「メンバーの活躍を“大胆に”報いる──大幅アップデートされたメルカリ人事評価制度の内容と意図」

Sansan:部門横断のコラボレーションで社内連携強化

名刺管理サービスの株式会社Sansanは、社内の部門横断的なコミュニケーション制度がユニークです。部署間の壁を取り払い、組織全体の活性化を促す仕組みを多数導入しています。

【Sansanの社内連携施策】

  • Know Me制度:
    他部署のメンバーとランチや飲み会をするときの費用を会社が補助する制度を設けています。普段接点のない部署同士でも気軽に交流し、お互いの業務内容や考え方を理解する場が年に400回以上設けられています。

  • 中途入社従業員が対象の「ななはち」:
    中途入社従業員を対象にした独自のオンボーディング制度があります。配属先のマネジャーがまず自部署のメンバー2人を紹介し、その後他部署とも関わりのあるメンバーへリレー形式でつなぐ流れで、合計3回のミーティングを実施します。入社直後から社内人脈づくりがスムーズに進む仕組みです。

  • オープンな情報共有:
    プロジェクトの進捗や成果を全社で共有する仕組みを作り、透明性の高い組織運営を行っています。部門を超えて知識やノウハウが循環し、組織全体の学習速度が向上しています。

結果として社内の連携が強まり、生産性向上やサービス品質向上につながっています。部門間の相互理解と協力関係が深まり、従業員の視野が広がって、会社全体としての成長にも寄与しています。

出典:Sansan「よいこ?コーチャ?それ全部Sansanの社内制度なんです!」「社内制度責任者が質問に答えます。「全ての社員が活躍できる」環境をつくるために」

 LIFE PEPPER:スピード優先の「超OJT」

グローバルマーケティング支援を行う株式会社LIFE PEPPERでは、新人を即戦力に鍛える “超OJT” を掲げています。スタートアップらしい実践的かつスピード感のある育成法が特徴です。

【LIFE PEPPERの超OJT特徴】

  • 現場先行型学習:
    入社後の新人は細かなマニュアルよりも、まず先輩社員に付き添って現場業務に飛び込みます。理論より実践を重視し、実際の業務を通じて必要なスキルと知識を習得するアプローチをとっています。

  • 主体性重視の姿勢:
    業務の意図や全体像は初めに共有されますが、その後は自身が考えてまずやってみることを重視します。ただ見ているだけではなく、「どんどんグイグイ来て」と主体的な関与を促される環境で成長を加速させています。

  • 個別対応型育成:
    人によって得意領域が違うため、メンターの付け方や仕事の任せ方もケースバイケースで柔軟に対応しています。画一的なプログラムではなく、個人の特性や成長曲線に合わせたオーダーメイドの育成を行っています。

同社は、「全員経営者」というバリューを掲げ、社員全員が経営者マインドを持つことを目指しています。入社直後から主体性が重視される環境で成長し、ビジネスの第一線で活躍できるようになります。ネガティブ離職率は0%と定着率が高く、少数精鋭の組織運営を可能にしています。

出典:LIFE PEPPER「スタートアップの教育制度って、実際どうなん?」Morebiz「社員の7割が海外在住経験者、バッググラウンドの異なるメンバーをまとめる「組織戦略」の考え方」

社内研修プログラムの工夫が際立つ事例  

社員研修イメージ

一方、独自の研修プログラムによって人材育成に成功している企業も少なくありません。とくに工夫が際立つ研修事例を通して、効果的な社内研修の設計ポイントを見ていきましょう。

  1. 三越伊勢丹:販売スキルの見える化
  2. 三菱UFJ銀行:行動変容プログラム「CODO」 

三越伊勢丹:販売スキルの見える化

株式会社三越伊勢丹では、販売スタッフ(スタイリスト)のサービススキルを「見える化」して効果的なOJTに活用する独自の「販売の質向上プログラム(SSP)」を全店導入しています。接客サービスという目に見えにくいスキルを可視化する工夫が特徴です。

【三越伊勢丹の研修プログラムの特徴】

  • スキルの見える化:
    優秀な販売員の行動を分析し、必要スキルを4段階で定義しています。接客の基本から高度な提案力まで段階的な可視化によって、自分の現在地と次の目標が明確になり、具体的な成長目標を設定しやすくなっています。

  • 共通基準の導入:
    上司と部下が同じ基準でレベルアップを目指せる環境を整備しています。曖昧になりがちな接客スキルを共通言語で評価できるようになり、OJTの質が向上しました。指導の個人差が少なくなり、全体的なサービスレベルの底上げにつながっています。

  • 定量的な成長実感:
    スタッフ自身が販売スキルの成長を数値で確認できるようになりました。自分の成長を実感できることでモチベーションが向上し、さらなるスキルアップへの意欲が高まるポジティブな循環が生まれています。

このプログラムにより、販売スタッフのエンゲージメントが向上し、顧客サービス向上を通じて売上・利益の増加にも寄与しています。職場全体の活気が高まり、販売スタッフ同士の学び合いも活発になるなど、組織風土の改善にも効果を発揮しています。

出典:厚生労働省「キャリア支援企業好事例集」

三菱UFJ銀行:行動変容プログラム「CODO」

三菱UFJ銀行では従業員の自律的なキャリア形成を支援する行動変容プログラム「CODO」を導入しています。従来型の研修にとどまらず、従業員の主体性を引き出し、キャリアオーナーシップを高める独自のプログラムが特徴です。

【三菱UFJ銀行の人材育成プログラム特徴】

  • 自律型キャリア形成:
    公募制ポストを設ける代わりにキャリアの「気づき」と「実践」の場を提供し、成果は処遇に反映する仕組みになっています。自分のキャリアを自分で考え、行動に移すことを奨励する文化が醸成され、年間2,000人以上の従業員が自ら手を挙げて社内公募に挑戦しています。

  • 職場体験制度:
    2023年には従業員が希望部署で短期職場体験できる「ミルシル」制度も開始され、すでに100名以上が応募・体験しました。実際の業務に短期間でも携わることで自身のキャリア選択に必要な情報を収集し、より的確な判断ができるようになります。部署間の相互理解も促進されています。

  • 実践と評価の連動:
    主体的な成長やリスキルへの取り組みが適切に評価・処遇される仕組みを整備しています。能力開発への挑戦が報われる環境によって従業員の学習意欲が高まり、自己投資への積極性が向上しています。

これらの施策により従業員のエンゲージメントが高まり、人材の定着率向上や組織の活性化にも寄与しています。自律的なキャリア形成の文化が根付き、変化の激しいビジネス環境においても従業員が主体的に学び続ける組織へと変革しています。

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「社員の自律的なキャリア形成を支援! 」

社内研修の事例は、「社内研修の事例14選!ユニークな内容を受講者の階層別に詳しく紹介」もあわせてご覧ください。また、社内研修の作り方については下記にまとめています。

社内研修企画資料バナー

OJTを効果的に活用している事例

OJTイメージ

実務を通じて学ぶOJTは、多くの企業で重視されています。とくに工夫が凝らされている事例を通じて、効果的な現場育成のポイントを見ていきましょう。

  1. 東京海上日動火災保険:計画的OJTと面談制度
  2. ヤマト運輸:二人三脚の配送研修とメンタリング


東京海上日動火災保険:計画的OJTと面談制度

東京海上日動火災保険株式会社では、「日本で一番『人』が育つ会社」の実現を掲げ、人材育成の基本を職場OJTに置いています。目に見えない保険商品を扱う企業として、人材の質が競争力の源泉だと認識し、計画的かつ体系的な人材育成を実践しています。

【東京海上日動のOJT特徴】

  • 対話型キャリア面談:
    上司と部下が定期的に面談し、部下のなりたい姿や強み・弱みを共有したうえでチャレンジングな役割を与えることで成長を促す仕組みを構築しています。キャリアビジョンの実現に向けて、実効性あるOJTを実施するためのコミュニケーション基盤が整備されており、育成の実効性を高めています。

  • 計画的OJT体系:
    年間を通じてOJT・Off-JT・自己啓発の計画的な取組みを行い、人材育成のPDCAサイクルを現場にビルトインしています。一人一人の育成計画が明確化され、上司の指導責任と部下の成長責任の双方が可視化され、継続的な能力向上が図られています。

この体系的OJTにより若手社員の早期戦力化と定着率向上につながり、従業員エンゲージメントも高まっています。計画的な人材育成により、職場全体の生産性が向上し、顧客満足度の向上や業績向上にも寄与する好循環が生まれています。

出典:厚生労働省「キャリア支援企業好事例集」

ヤマト運輸:二人三脚の配送研修とメンタリング

ヤマト運輸株式会社では、新人ドライバー育成の際にかならず経験豊富な先輩社員とペアを組ませるOJTを行っています。「二人三脚」での現場実践を通じて確実なスキル習得を実現しています。

【ヤマト運輸の現場OJT】

  • 入社時研修:
    約1カ月のプログラムで、商品やサービスについて学びます。研修後も新サービスのリリース時には説明会などを実施し、継続的に情報を共有しています。

  • 運転技術の習得:
    座学や実車を用いた教育を受け、安全運転の方法や車両の特性を学びます。社内基準を満たした後に「社内免許」を取得し、プロドライバーとしての第一歩を踏み出します。

  • 同乗指導:
    社内免許取得後は、先輩が運転するトラックに同乗して配達や接客を学びます。困ったときや忙しいときこそチームで助け合う文化があり、着実に実践経験を重ねられます。

これらの仕組みにより、新人ドライバーの重大事故発生率は低水準に抑えられ、サービス品質も維持されています。現場のベテランが「教える責任」を持つ文化が根付いており、結果として新人定着率は向上し、人手不足の課題解消にも寄与しています。

出典:ヤマト運輸「研修と仕事を知る(SD)」

OJTについて詳しくは以下の資料にて体系的にまとめています。OJT2点セットバナー

リスキリングへの取り組みが秀逸な事例

スキリング

近年のビジネス環境変化に対応するため、既存従業員の能力開発「リスキリング」に注力する企業が増えています。先進的な取り組みを行っている企業の事例から、効果的なリスキリング戦略を学びましょう。

  1. 日立製作所:段階的なDXリテラシー向上プログラム

  2. KDDI:社内大学方式による集中育成


日立製作所:段階的なDXリテラシー向上プログラム

株式会社日立製作所では「デジタル対応力を持つ人材の強化」を重点課題に掲げ、従業員へのリスキリングを積極的に推進しています。

具体的には、人材育成の要となる “日立アカデミー” が中心となり、段階的なスキル習得を可能にするプログラムを開発しました。基礎から応用まで体系的に学べる仕組みです。

【日立のDX人材育成プログラム】

  • DX基礎研修プログラム:
    2020年度に開発された「デジタルリテラシーエクササイズ」では、DXの概念理解から課題解決手法まで4段階で学べる教材を提供しています。入門から応用まで体系的に構成されており、ITに詳しくない従業員でも無理なくデジタルスキルを習得できる工夫がされています。

  • 全社規模の展開:
    グループ全従業員約16万人を対象にこの研修を受講させ、全社的なDX人材の戦略的育成を進めています。部門や役職を問わず共通のデジタル言語・知識を持つことで、部門間の連携強化と組織全体のDX推進力向上を図っています。

  • 実践的アプローチ:
    座学だけでなく実際のビジネス課題を題材にした実践的な演習も取り入れています。習得した知識を実際の業務に応用する機会を創出して学びを確実に定着させ、現場での即戦力となる人材育成を実現しています。

全従業員に共通のデジタル知識を習得させることで部門間の連携が強化され、従業員エンゲージメントの向上や事業のDX推進に寄与しています。社内のデジタル活用事例も増加し、新たなビジネスモデル構築にも貢献しています。

出典:日立アカデミー「DXを推進する人財育成」PR TIMES STORY「社員の自律的な学びを促進する日立グループの「DX人財育成」と「リスキリング」」リクルートワークス研究所「リスキリングとは DX時代の人材戦略と世界の潮流一」

KDDI:社内大学方式による集中育成

KDDI株式会社では、「人財ファースト企業への変革」を掲げています。中期経営戦略でDXを最重要領域に位置付け、社内大学という独自のアプローチでリスキリングを推進し、DX時代をけん引する人材を集中的に育成しています。

【KDDIのリスキリング体制】

  • 社内大学の設立:
    全従業員を対象に社内大学方式の「KDDI DX University」を設立し、DXに関する知識・スキルを体系立てて学べる実践的プログラムを提供しています。専門家による講義や実践的なプロジェクト演習を通じて、理論と実践の両面からDXスキルを習得できる環境を整えています。


  • 選抜型集中研修:
    注力育成コースに選抜された従業員は、2カ月間は業務から離れて集中的に知識習得をした後、全社横断のDX案件プロジェクトに参加して約7カ月間OJT期間として経験を積みます。短期間でDX推進の中核人材を育成するこの取り組みは、迅速な組織変革を支える重要な柱となっています。


  • 明確な数値目標:
    DX人財の育成は2023年度までにDX人材をグループ全体で4,000人規模に拡大し、その中核となる500人をこの大学で育成する目標を掲げてスタートしました。経営層のコミットメントと明確な数値目標設定により、リスキリングの実効性と推進力を高めています。

これらの取り組みにより、従業員のデジタルスキル習得とエンゲージメント向上を図り、DX推進に向けた社内人材の職種転換を実現しています。既存従業員のスキルアップデートにより外部採用コストを抑制しながら、新規事業開発に必要な人材を社内から供給できる体制が整っています。

出典:KDDI「求む!未来のDX人財 「KDDI DX University」を設立したKDDIのDXに懸ける本気度」「KDDIグループのDX人財を2023年度までに4,000名規模に拡大」

リスキリングの事例については、「【リスキリング事例12選】大企業・中小企業それぞれのヒントが満載」の記事もあわせてご覧ください。

人材育成に成功している企業に共通している重要ポイント

人財育成 イメージ

さまざまな業界・規模の企業の事例を見てきましたが、人材育成に成功している企業には共通する特徴があります。これらのポイントを理解すれば、自社の人材育成戦略に生かせる普遍的な原則が見えてきます。

  1. OJTとメンタリングの体系化による早期戦力化と定着
  2. 従業員主体のキャリア開発支援と挑戦機会の提供
  3. 経営ビジョンに即した人材育成と成果の見える化

OJTとメンタリングの体系化による早期戦力化と定着

多くの企業は現場OJTと先輩社員の1対1サポートを制度として体系化しています。多くの成功企業に共通するのは、個人の裁量に任せず組織的な仕組みとして確立している点です。

【OJT・メンタリングの成功ポイント】

  • 制度化されたOJT:
    先輩が計画的に新人を育成する仕組みがある企業では、新人が安心して学べるため離職率の低下と早期の戦力化が実現しています。単なる「見て覚えろ」ではなく、段階的な指導計画と評価基準が明確になっています。

  • メンター制度の充実:
    若手に年次の近い先輩社員を付けるケースでは、悩み相談やフィードバックを受けやすくエンゲージメントが向上しています。上司とは別の相談相手によって、新人の心理的安全性が確保され、積極的に質問や挑戦ができる環境が整います。

  • 教える側の成長促進:
    先輩社員の指導実績を人事評価に反映するなど、教える側の成長も促進しています。「人が人を育てる」文化を組織的に醸成し、教える側の先輩もモチベーションが上がる好循環が生まれています。

これらの取り組みにより、新人だけでなく教える側の先輩も指導力が評価されモチベーションが上がる好循環が生まれています。結果として人材の定着と早期育成という成果(離職率低下、研修後の即戦力化、生産性向上)が各社で確認されています。

従業員主体のキャリア開発支援と挑戦機会の提供

人材育成が成功している企業は、従業員の主体的なキャリア形成を会社が支援する制度を持っています。従業員の自律性を尊重しながら、成長の機会を豊富に提供する点が共通しています。

【キャリア開発支援の特徴】

  • 自主選択型異動制度:
    社内公募などの制度は、従業員自ら希望して新たなポストに挑戦できる仕組みで、個々の成長意欲を引き出しています。「上からの配置」ではなく「自ら選ぶ」自律性により、モチベーションと成長スピードが大きく向上します。

  • 成長志向の評価制度:
    評価制度と育成を紐づけ、短サイクルでの目標対話やフィードバックにより従業員が自分の成長課題を把握し主体的に努力できるようにしています。評価が単なる査定ではなく、次の成長につながる建設的なものになっています。

  • 挑戦の場の提供:
    部署横断のプロジェクトや新規事業提案制度などチャレンジの場を社内に用意し、従業員の創造性や志向に合った挑戦ができるようにしています。通常業務とは別の挑戦機会が、従業員の視野拡大や潜在能力の発揮につながっています。

このように、従業員に裁量と機会を与えることで内発的動機づけ(自己成長欲求)が高まり、結果的に高い業績貢献やエンゲージメント向上に結びついています。

経営ビジョンに即した人材育成と成果の見える化

成功企業は、人材育成を経営戦略の一部として位置付け、トップダウンで推進している点も共通しています。単なる研修やOJTではなく、会社の将来像と連動した育成が行われています。

【戦略的人材育成の要素】

  • 経営層のコミットメント:
    タレントマネジメント委員会で次世代リーダー育成を議論したり、各社経営層が人材育成方針を明確に打ち出したりと、全社的な取り組みとして人材育成を位置付けています。トップの関与が、人材育成の優先度と実効性を高めています。

  • ビジョンと連動した育成:
    自社の変革ストーリーを教材化して従業員に共有したり、各社が育成プログラムと会社の中期戦略を明確にリンクさせたりしています。従業員も自分の成長が会社の成長ミッションに直結すると理解しやすく、研修の意義やモチベーションが高まります。

  • 定量・定性評価の実施:
    育成施策の効果測定を重視し、人事KPIの見える化を行っている点も見逃せません。人材改革後の従業員エンゲージメントスコアや挑戦意欲、貢献度などを的確に評価して改善につなげています。

こうした定量・定性の効果測定とフィードバックを通じて、人材育成施策に経営層も現場も納得感を持って取り組み続けることができています。総じて、戦略と人材育成の一貫性と成果の検証・改善を回す仕組みが、持続的な人材育成成功の鍵となっています。

さらに、これからの人材育成で大切なことは、「人材育成で大切なこと!新時代の課題と成功のポイントなどを解説!」の記事にまとめました。ぜひ続けてご覧ください。

まとめ

本記事では「人材育成の事例」として、以下の13の事例をご紹介しました。

  1. トヨタ自動車:徹底的な現場研修と「職場先輩制度」
  2. ソニー:社内公募と従業員主体の研修企画
  3. パナソニック:職能別研修+タレントマネジメントシステム
  4. リクルート:対話とフィードバックによるリーダー育成
  5. メルカリ:評価と育成を紐づけた独自の評価制度
  6. Sansan: 部門横断のコラボレーションで社内連携強化
  7. LIFE PEPPER:スピード優先の「超OJT」
  8. 三越伊勢丹:販売スキルの見える化
  9. 三菱UFJ銀行:行動変容プログラム「CODO」
  10. 東京海上日動火災保険:計画的OJTと面談制度
  11. ヤマト運輸:二人三脚の配送研修とメンタリング
  12. 日立製作所:段階的なDXリテラシー向上プログラム
  13. KDDI:社内大学方式による集中育成

昨今の経営環境は変化が激しく、人材育成の重要性は増す一方です。成功事例のエッセンスを取り入れ、人が成長し続ける組織を構築していくことが実務上の鍵となります。

株式会社LDcubeは、時代の変化に合わせて人材育成の施策展開を支援しています。
これからの時代に必要な学習行動のデータ取得と活用など、多くの組織からいただいた課題の解決を中心にサービスを提供しております。

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LDcube編集部
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株式会社ビジネスコンサルタント時代から約60年、人材開発・組織開発に携わってきた知見をもとに、現代求められる新たな学びについて、ノウハウや知見をお届けします。

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