人的資本経営で重要な指標とは?KPI設定の具体的な流れを紹介
近年では、人材を企業の資本として捉える人的資本経営が企業で取り入れられています。
人的資本経営には人材の価値やスキルを引き出す目的があり、企業価値の向上につながると考えられています。
しかし、人的資本経営を適切に実施するためには情報開示が必要であり、企業独自に指標を設定しなければなりません。
この記事では、人的資本経営の概要や情報開示が求められる理由、開示対象の分野・項目や重要な指標について詳しく解説します。
▼人的資本の充実化を図るための研修などの施策については下記にて解説しています。
合わせてご覧ください。
⇒人的資本経営の実現に向けた研修とは?組織と個人に効果的な4つの施策
▼人的資本経営の課題については下記で詳しく解説しています。
⇒人的資本経営に向けた課題と解決策!企業に求められる5つの取り組み
▼人的資本に投資することを考えた場合、人的資本である社員の能力開発に適した年齢がわかりました。タイミングを逃さず、投資すべき年齢層の社員に投資することが投資効率を高めます。
目次[非表示]
人的資本経営とはどんなもの?
人的資本とは、人材をお金や土地、設備などと同様に企業の資本として捉える考え方です。
知識やスキルが豊富な人材は付加価値を生み出す資本であり、積極的に投資すべき対象として考えられています。
世間の動向や環境の変化により、企業に投資する投資家がこれまでの有形資産重視の評価から無形資産に重点を置きはじめたことが、人的資本が重要視されるようになった理由です。
政府も人的資本が日本企業の競争力によい影響を与えると考えており、人的資本経営を推奨しています。
経済産業省によると、人的資本経営は以下のように定義されています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
人材は企業を動かすための歯車としてではなく、重要な資本として育てていくことで企業全体のレベルの底上げや企業価値の向上が期待できます。
人的資本の情報開示が求められる理由
人的資本経営を行う場合、人的資本に関する情報開示が求められます。
この背景には、2020年9月に経済産業省から発表された『人材版伊藤レポート』や、人的資本を含めた非財務資本に注目している証券市場からの要求の高まりがあると考えられています。
近年の投資家は、企業の人的資本をはじめとした非財務資本に着目する傾向にあり、米国でも人的資本に関する情報開示が義務化されました。
日本でも同様であり、2023年3月から上場企業と一部の非上場企業の約4,000社を対象に人的資本の情報開示が義務化されています。
非正規雇用や外国人労働者など多種多様な人材がいる日本企業では、人材の能力や価値を最大限引き出す人的資本経営が求められています。
情報開示の対象となる7分野・19項目
内閣官房が公表した『人的資本可視化指針』で、人的資本における望ましい開示項目の7分野19項目が提示されました。人的資本開示の対象となる分野と項目は以下のとおりです。
分野 |
項目 |
人材育成 |
・育成 ・スキル/経験 ・リーダーシップ |
多様性 |
・育児休業 ・非差別 ・ダイバーシティ |
健康・安全 |
・安全 ・身体的健康 ・精神的健康 |
労働慣行 |
・労働慣行 ・福利厚生 ・組合との関係 ・児童労働/強制労働 ・資金の公正性 |
エンゲージメント |
・従業員満足度 |
流動性 |
・採用 ・維持 ・サクセッション |
コンプライアンス |
・法令順守 |
上記項目すべてを情報開示する必要はなく、主に数値化できるものや投資目的の観点から重要と考えられるものを整理して開示します。
開示項目を選定する際は、自社の経営戦略と人的資本への投資の検討を行ったうえで、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの要素をベースとして考えると、より効果的かつ効率的なアプローチができるはずです。
人的資本経営の実現で特に重要な指標
ここでは、人的資本経営で特に重要な指標を4つ紹介します。
(人的資本経営の実現で特に重要な指標)
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①人材育成
人的資本経営における人材育成では、以下の項目が重要な指標となります。
- 研修参加者数
- 研修参加時間
- 研修参加率
- 研修費用 など
企業における人材育成では、研修を実施して必要なスキルや知識を習得させるのが一般的です。
人的資本を直接的に高めようと思うと、研修などを通じて社員のスキルアップを図る必要があります。中長期的な人材戦略に基づいて研修制度などの充実化を図り、人的資本を高めるための投資をしていくことが求められます。
社員の研修参加状況や企業が研修にかけたコストなどは、人的資本にどれだけ投資しているか分かりやすくするための指標の一つです。
また、中長期的な人材育成施策を展開し、幹部人材の後継者を確保することなども重要です。
②エンゲージメント
人的資本経営におけるエンゲージメントでは、以下の項目が重要な指標となります。
- エンゲージメント
- 従業員満足度 など
エンゲージメントや従業員満足度は、従業員が企業に対してどれほどの愛着や満足感を抱いているか表す指標です。
満足度や継続勤務意向は企業の安定経営にも影響するものであるため、幅広い視点から引き出す取り組みが必要です。
離職率が高く、人材が定着しない場合、人的資本を浪費してしまうことにもつながります。エンゲージメントを高め、離職率を下げ、人材の定着を高めて行くことは人的資本を有効活用することにつながります。
③ダイバーシティ
人的資本経営におけるダイバーシティでは、以下の項目が重要な指標となります。
- 労働力のダイバーシティ
- 男性・女性の給与差
- 育児休暇取得率 など
企業における労働力の多様性が高まることは、新たな価値を生み出すイノベーションのプロセスを活性化させることにつながるという期待もあります。
そして、ダイバーシティに関する項目は、従業員一人一人が尊重されている環境で働けているかを表す指標です。
人的資本開示のなかでも、女性の管理職比率や男性の育児休暇取得率は特に重要視されています。
④コンプライアンス
人的資本経営におけるコンプライアンスでは、以下の項目が重要な指標となります。
- コンプライアンスや人権などの研修を受けた従業員の割合
- 深刻な人権問題の件数
- 差別事例の件数・対応措置
- 苦情の件数 など
コンプライアンスに関する項目は、企業内で人権の尊重や従業員の公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引が行われているかを表す指標です。
多様性が重視される現代では性別や国籍問わず、すべての従業員が平等に働ける環境の実現が必要です。
人的資本経営の実現へのKPI設定方法
ここでは、人的資本経営の実現に向けたKPIの設定方法を紹介します。
(人的資本経営の実現へのKPIの設定方法)
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①トレンドや他社にとらわれない独自性のある指標に絞る
人的資本経営に向けたKPIを設定する際は、トレンドや他社にとらわれない独自性のある指標に絞ることが大切です。
人材に関するKPIを開示している企業の資料を参考にすれば、頻繁に用いられるKPIを把握できますが、あくまで参考程度に留めておくことをおすすめします。
独自性のある指標を絞る方法として、人材版伊藤レポート2.0の「3つの視点と5つの共通要素」の活用が有効な手段のひとつです。
②優先順位の高いKPIから取り組む
優先順位の高いKPIから取り組むことで、人的資本経営が実現しやすくなります。自社と競合他社を比較して課題を整理した後、取り組むべきKPIの優先順位を決めます。
決定したKPIは従業員や投資家に対して明確にし、そこに向けて取り組む姿勢を明示することが大切です。
③定性指標の設定も検討する
定性指標は、自社にとって重要な予兆の把握に役立てられます。
中長期的な目線で将来的に必要となる人材の数や、生産性を示す定量指標の設定を検討することが大切です。
定性指標を測定する際は、可能な範囲で定量化を行い、その推移を把握した上で機動的に改善策を講じることで人的資本経営が実現しやすくなります。
人的資本の現状のデータ化
学習状況のデータ化と人的資本への活用
学習者がこれまでに習得したスキルだけでなく、現在の学習状況を明確に把握することが重要です。
具体的な指標としては、社内で開催される研修会の回数や時間、参加者数、また大学など外部の教育機関に通っている人数や受講している講座数、受講時間等が挙げられます。
これらの数値を計測・管理することが、個々人の学習状況を把握し、適切な人材育成策を立案する上で重要です。
また、社内の学び方自体もアップデートし、研修会だけでなく、eラーニングなどの活用による学習環境の充実を進めることも求められます。
eラーニングのコンテンツは、ビジネススキルなどの一般的な学習コンテンツと、自社特有のスキルを身に付けるためのオリジナルコンテンツをバランス良く揃えることが望ましいです。
このような学習環境の充実により、学習者の学習時間や学習コンテンツ数など、学習行動の様々なデータを取得するための基盤が整います。
得られたデータを活用して人材育成策のPDCAを回し、人的資本の質的充実を図ることが可能となります。
学習行動のデータ化方法
学習行動をデータ化するためには、2つの要素が必要です。
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コンテンツをデジタル化し、それをラーニングプラットフォームに掲載して運用します。
学習者がプラットフォーム上で学習を行うことにより、全ての学習行動が自動的にデータ化されて蓄積されます。
これにより、精密で詳細な学習行動データの分析と活用が可能になります。
学習行動のデータ取得が課題
2023年7月に、株式会社LDcubeでは「ポスト・コロナのOJTの人財育成の実態」についてのアンケート調査を実施しました(有効回答数223件)。
アンケートでは、「人的資本経営が重要になってきているという状況下で、貴社では『社員がどれくらい学習しているか』といった、社員の学習行動についてのデータを取得・可視化できていますか?」という問いを投げかけました。
データ取得の結果、77%の組織が社員の学習行動のデータを取得できていないことが明らかとなりました。
今後の人的資本経営を推進する上で、まず立ちはだかる課題と言えるかもしれません。
人的資本である社員が研修会のみならず日ごろからどれくらい学習行動を取っているのかという具体的なデータがなくては効果的な施策のPDCAを回すことができません。
学習行動データを活用して、人的資本の充実化を図る施策のPDCAを回し、投資効率を高めていくことが必要となります。
▼学習行動データを取得・活用するためのLMSについて比較しました。検討にお役立てください。
⇒【比較表付き】LMS(学習管理システム)11選を機能別に徹底紹介
まとめ
この記事では、人的資本経営について以下の内容で解説しました。
- 人的資本経営とは
- 人的資本の情報開示が求められている理由
- 人的資本開示の対象となる7分野・19項目
- 人的資本経営の実現で特に重要な4つの指標
- 人的資本の現状のデータ化
- 学習行動のデータ取得が課題
人的資本経営を適切に行うことで従業員の能力や価値を引き出し、企業価値の向上が見込めるようになります。人的資本経営では情報開示が必要であり、企業が重要な資本である人材にどれだけ投資しているか示さなければなりません。
人材への投資は、従業員ニーズに沿った研修を行うことでスキルや知識の習得、企業に対する満足度向上などの効果が期待できます。
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