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人的資本開示の義務化7分野19項目と進め方をわかりやすく解説

「人的資本開示の義務化対象がよくわからない」
「何に注意して人的資本の情報開示を行えばよいのだろうか…」

あなたは今、上場に向けて色々と調べている中で、人的資本の開示義務があることを知ったのではないでしょうか。

2023年3月期より有価証券報告書を発行する大手企業に、人的資本情報の開示が義務化されました。

人的資本開示の義務化の概要は以下のとおりです。

【人的資本開示義務化の概要】

開始日

2023年3月期決算以降

対象企業

有価証券報告書を発行している大手企業の約4,000社

​​​​​​​義務化の項目

【サステナビリティに関する考え方及び取組】
※全企業対象

①人材育成方針
②社内環境整備方針
③1、2の測定可能な指標による目標および進捗状況

【従業員の状況】
※女性活躍推進法または育児・介護休業法に基づいて公表を行う企業が対象
④女性管理職比率
⑤男性育休取得率
⑥男女間賃金格差

従来の経営では、人材を「コスト」または「資源」と考えられていましたが、昨今では人材を「資本」として捉え、人材採用は「投資」と考える「人的資本経営」が加速しています。

人的情報開示の内容は、義務化の項目とは別に2022年8月に内閣府が「人的資本可視化指針」を発表しており、具体的な人的資本の推奨開示項目を以下の7分野19項目として示しています。

【人的資本開示義務化により推奨される7分野19項目】

分野

項目

人材育成

・リーダーシップ
​​​​​​​・育成
・スキル/経験

エンゲージメント

・エンゲージメント

流動性

・採用
・維持
・サクセッション

ダイバーシティ

・ダイバーシティ
・非差別
・育児休業

健康・安全

・精神的健康
・身体的健康
・安全

労働慣行

・労働慣行
・児童労働/強制労働
・賃金の公正性
・福利厚生
・組合との関係

コンプライアンス/倫理

・コンプライアンス/倫理

​​​​​​​ただし、全ての項目に対して開示する義務があるわけではなく、企業は自社に求められるニーズに対応して選択をします。

しかし、まだ情報開示の義務化がはじまったばかりかつ、開示内容は自社の経営戦略や取り組みなどを基に企業ごとに検討・策定しなければなりません。そのため、自社の場合はどのように進めればいいのかイメージが沸きづらいのが現状です。

そこでこの記事では、人的資本開示義務化の概要と開示が推奨される項目の詳細を解説し、具体的に開示をする上での進め方についてもわかりやすく紹介します。

これから人的資本開示の準備を進める人はもちろん、人的資本開示をこれから行いたいと考えている人は、ぜひ最後まで読み進めてください。

▼人的資本経営についてはテーマに合わせて下記で解説しています。
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▼人的資本経営については下記にまとめています。

目次[非表示]

  1. 1.【2023年3月決算期以降】上場会社の人的資本開示が義務化
  2. 2.人的資本開示義務化の対象2分野6項目
  3. 3.人的資本開示で推奨される7分野19項目
    1. 3.1.人材育成に関連する開示事項
    2. 3.2.エンゲージメントに関連する開示事項
    3. 3.3.流動性に関連する開示事項
    4. 3.4.ダイバーシティに関連する開示事項
    5. 3.5.健康・安全に関連する開示事項
    6. 3.6.労働慣行に関連する開示事項
    7. 3.7.コンプライアンス・倫理に関連する開示事項
  4. 4.人的資本開示に向けた進め方4ステップ
    1. 4.1.STEP1|人的資本経営に向けた方針を明確化する
    2. 4.2.STEP2|人的資本への投資が会社の強みとなることを言語化する
    3. 4.3.STEP3|4つの要素に沿って考える
    4. 4.4.STEP4|「独自性」と「比較可能性」のバランスをとって分かりやすくまとめる
  5. 5.人的資本開示の項目を検討する上で「価値向上」と「リスク」の観点整理も重要!
  6. 6.まとめ

【2023年3月決算期以降】上場会社の人的資本開示が義務化

冒頭でお伝えしたとおり、2023年3月決算期より上場会社に提出が義務付けられている有価証券報告書にて、人的資本に関する情報開示を行うことが義務付けられました。

人的資本開示の義務化に関する概要は、以下のとおりです。

【人的資本開示義務化の概要】

開始日
2023年3月期決算以降
対象企業
有価証券報告書を発行している大手企業の約4,000社
義務化の項目
【サステナビリティに関する考え方及び取組】
※全企業対象

①人材育成方針
②社内環境整備方針
③1、2の測定可能な指標による目標および進捗状況
【従業員の状況】
※女性活躍推進法または育児・介護休業法に基づいて公表を行う企業が対象
④女性管理職比率
⑤男性育休取得率
⑥男女間賃金格差

人的資本開示の義務化の対象となるのは、金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業です。

義務化による記載項目は6項目と限定的ですが、金融庁はつぎのように示しています。

”各企業の取組状況に応じて、まずは2023年3月期の有価証券報告書の開示をスタートし、その後、投資家との対話を踏まえ、自社の取組の進展とともに、有価証券報告書の開示を充実することが考えられる。”
引用:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」

つまり、投資家と対話を深めるための追加材料として開示義務化がスタートされ、今後は理想的な開示のモデルケース共有や開示項目の拡大が行われていくと予想されます。

人的資本開示義務化の対象2分野6項目

前章でお伝えしたとおり、人的資本開示の義務化で要求されている項目は次の2分野6項目です。

【サステナビリティに関する考え方及び取組】 ※全企業対象
①人材育成方針
②社内環境整備方針
③1、2の測定可能な指標による目標および進捗状況
【従業員の状況】 ※女性活躍推進法または育児・介護休業法に基づいて公表を行う企業が対象 ④女性管理職比率
⑤男性育休取得率
⑥男女間賃金格差

これらの項目の開示内容について、具体的な決まりはありません。

しかし、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目については、企業の持続可能性や、中長期的な成長の可能性を投資家やステークホルダーが評価するために必要な情報を含めることが求められています。

つまり、ただ人材育成や社内環境整備の「方針」を開示するだけでは意味がないのです。

とは言え、どのような内容を開示すべきか悩む担当者も多いでしょう。

そこで開示内容の参考となるのが、内閣官房の非財務情報可視化研究会が公表した「人的資本可視化指針」において開示が推奨されている7分野19項目です。

「①人材育成方針」であれば、「人材育成」の分野
「②社内環境整備方針」であれば、「ダイバーシティ」の分野

を参考にしながら、開示内容を検討していくと良いでしょう。

この項目については、次の章で具体的に詳しく解説をしていきます。

人的資本開示で推奨される7分野19項目

内閣府に設置された非財務情報可視化研究会が公表している「人的資本可視化指針」では、人的資本開示で推奨する項目として、以下の7分野に分けて19項目を挙げています。

【人的資本開示を推奨する7分野】

分野1:人材育成
分野2:従業員エンゲージメント
分野3:流動性
分野4:ダイバーシティ
分野5:健康・安全
分野6:労働慣行
分野7:コンプライアンス・倫理

これらの項目すべてに対し開示が義務付けされていないものの、従業員の状況や企業が人材に投資している内容を透明化するため、できる限り開示することが求められます。

とは言え、「具体的にどういった指標を可視化すれば良いか分からない」という企業担当者も多いでしょう。

ここでは、推奨されている開示項目ごとに、具体的な開示例をご紹介します。

紹介する内容はあくまでも「例」です。これらを参考に自社の経営戦略・人材戦略に合わせた計測指標を用意することを重視しましょう。

人材育成に関連する開示事項

人材育成に関して開示が推奨されている情報は、以下の3項目が挙げられます。

【人材育成に関連する開示項目】

  1. リーダーシップ
  2. 育成
  3. スキル・経験

具体的な開示内容の例としては、以下の内容が考えられます。

【人材育成に関連する開示例】

  • 研修時間
  • 研修費用
  • パフォーマンスとキャリア開発につき定期的なレビューを受けている従業員の割合
  • 研修参加率
  • 複数分野の研修受講率
  • リーダーシップの育成
  • 研修と人材開発の効果
  • 人材確保・定着の取組の説明
  • スキル向上プログラムの種類・対象等

人材育成に関連する開示事項では、企業がどのように人材のスキルや能力を向上させ、従業員の成長を支援しているかを具体的に示すことが求められます。

これによりステークホルダーは企業の人材戦略を理解しやすくなり、企業の持続可能な成長を見込むことができるようになります。

【好事例】株式会社エヌ・ティ・ティ・データ有価証券報告書(2023年3月期)

プロフェッショナル人材の育成やグローバルマーケットで活躍できる人材の育成など、人材戦略の一つであるグローバル人材の育成システムに関する取組みについて具体的に記載。

出典:金融庁「人的資本、多様等」の開示例

教育プログラム構築に悩んでいる方は、研修システムを活用するのも一つの手です。

例えば、当社であれば、自律型学習を加速し、スキル開発を最大化するという観点のLMS・eラーニングシステムである「CrossKnowledge」をご用意しています。

自社の教育プログラムをデジタル化して運用効率を向上させるLMS(プラットフォーム)と、世界MBAレベル講義動画など、幅広いジャンルと質の高いコンテンツをそろえたeラーニングが、教育の質を飛躍的に高めます。

▼「CrossKnowledge」の資料はこちらからダウンロードできます。


​​​​​​​

エンゲージメントに関連する開示事項

エンゲージメント(愛着やモチベーション)分野では、従業員の声を適切に把握し、それに基づいてどのような施策を行っているかを明確に示すことが求められます。

具体的な開示内容の例として、以下の内容が挙げられます。

【エンゲージメントに関連する開示例】

・エンゲージメントの測定方法と結果
・エンゲージメント向上の施策(柔軟な働き方、福利厚生の充実)
・組織文化と価値観
・エンゲージメントの成果とKPI
・離職率
・サステナビリティとの関連

これらの開示例を参考に包括的に整理し、定性的な説明ではなく、定量的なデータや実績も合わせて開示することが重要です。

【好事例】株式会社電通総研

Great Place To Work®の「働きがいのある会社」調査に2022年から参加し、「働きがいのある会社」認定を受けたことや、エンゲージメントを向上させるための施策について詳しく記載。

出典:株式会社電通総研「Human Capital Report2024」

チームの活性化を通じてエンゲージメント向上を図るポイントや、低下する職場のコミュニケーションの特徴と解決策については、下記にて詳しく解説しています。
エンゲージメント向上に向けた取組に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

▼エンゲージメントが低下する職場コミュニケーションの特徴と解決策についての資料は、こちらからダウンロードできます。



流動性に関連する開示事項

流動性の分野で開示が求められている情報として、以下の3項目が挙げられます。

【流動性に関連する開示項目】

  1. 採用
  2. 維持
  3. サクセッション

具体的な開示内容の例としては、以下の内容が考えられます。

【流動性に関連する開示例】

・離職率
・定着率
・新規雇用の総数・比率
・離職の総数
・採用・離職コスト
・人材確保・定着の取組の説明
・移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
・後継者有効率
・後継者カバー率
・後継者準備率
・求人ポジションの採用充足に必要な期間

​​​​​​​流動性の分野では、企業内での人材の流動性(採用、離職、内部異動など)に関するデータや施策が求められます。

これは、企業がどのようにして適切な人材を確保し、育成し、活用しているかを示す指標となり、持続可能な組織運営や競争力の源泉を評価するための重要な情報です。

流動性の開示は、単なる人事データの提供ではなく、企業が戦略的に人材を活用し、変化に適応する能力を示すものです。

定量データに加えて、具体的なストーリーや事例を含めることで、ステークホルダーにより深い理解を促すことができます。

ダイバーシティに関連する開示事項

ダイバーシティ(多様性)に関連する開示事項は、企業が多様な人材を受け入れ、活用し、公平で包摂的な(インクルーシブな)環境を整えているかを示す重要な指標です。

開示が求められている情報として、以下の3項目が挙げられます。

【ダイバーシティに関連する開示項目】

  1. ダイバーシティ
  2. 非差別
  3. 育児休業

具体的な開示内容の例としては、以下の内容が考えられます。

【流動性に関連する開示例】

  • 属性別の従業員・経営層の比率
  • 男女間の給与の差
  • 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
  • 最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェア等
  • 育児休業等の後の復職率・定着率
  • 男女別家族関連休業取得従業員比率
  • 男女別育児休業取得従業員数
  • 男女間賃金格差を是正するために事業者が講じた措置

ダイバーシティに関連する情報は、単に数値データを提示するだけでなく、実際の施策やその効果、従業員の声を組み合わせてストーリーとして伝えることが重要です。

それにより、企業の取り組みをより説得力をもって示すことができます。

【好事例】第一生命ホールディングス

2021年度から2022年度にかけて男性育休取得率が約2倍に伸びていることや、新卒採用女性比率、管理職女性比率を数値として記載。そこに向かうための施策や活動などを具体的に明記。出典:統合報告書|第一生命ホールディングス株式会社


健康・安全に関連する開示事項

健康・安全の分野で開示が求められている情報として、以下の3項目が挙げられます。

【健康・安全に関連する開示項目】

  1. 精神的健康
  2. 身体的健康
  3. 安全

具体的な開示内容の例としては、以下の内容が考えられます。

【健康・安全に関連する開示例】

  • 労働災害の発生件数・割合、死亡数等
  • 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
  • 安全衛生マネジメントシステム等の導入の有無、対象となる従業員に関する説明
  • 健康・安全関連取組等の説明
  • (労働災害関連の)死亡率
  • ニアミス発生率
  • 労働災害による損失時間
  • (安全衛生に関する)研修を受講した従業員の割合
  • 業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
  • 労働関連の危険性(ハザード)に関する説明

健康・安全は従業員の生産性やエンゲージメント、企業の持続可能性に直接的に影響するため、多くのステークホルダーから注目されています。

データ開示はもちろん、企業の姿勢や取り組みを包括的に示すことで、ステークホルダーから信頼を得るとともに、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。

【好事例】住友商事株式会社|統合報告書

定期健康診断の受診率が100%である実績と、カウンセリングセンターの設置かつ利用者の増加について記載。出典:統合報告書|住友商事株式会社

労働慣行に関連する開示事項

労働慣行の分野で開示が求められている情報として、以下の5項目が挙げられます。

【労働慣行に関連する開示項目】

  1. 労働慣行
  2. 児童労働・強制労働
  3. 賃金の公平性
  4. 福利厚生
  5. 組合との関係

具体的な開示内容の例としては、以下の内容が考えられます。

【労働慣行に関連する開示例】

  • 長時間労働の割合
  • 児童労働・強制労働に関する説明
  • 男女間、正規・非正規間の給与の差
  • 福利厚生の種類、コスト
  • 結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明
  • 業務停止件数

これらの開示事項は、企業がどれだけ働きやすい環境を整えているかを示すものであり、従業員のワークライフバランスを支援する取り組み等が評価されます。

結果として、優れた労働慣行は従業員の満足度向上や優秀な人材の確保に寄与します。

コンプライアンス・倫理に関連する開示事項

「コンプライアンス・倫理分野」では、企業が法令を遵守し、倫理的な行動を推進するための取り組みに関する情報の開示が求められます。

企業の従業員やステークホルダーが健全で透明性の高い業務運営を行っているかを示す重要なポイントです。

具体的な開示内容の例としては、以下の内容が考えられます。

【コンプライアンス・倫理に関連する開示例】

  • 深刻な人権問題の件数
  • 差別事例の件数・対応措置
  • 苦情の件数
  • 懲戒処分の件数と種類
  • サプライチェーンにおける社会的リスク等の説明

これらの開示事項は、企業のリスク管理能力や社会的責任を示すものであり、信頼性の向上に寄与します。

また、コンプライアンス・倫理に関する取り組みが人的資本戦略の一環であることを明示することで、企業の持続可能性を支える基盤としての役割を強調できます。

人的資本開示に向けた進め方4ステップ

人的資本の開示に進めていくために、「どのように進めていくべきかわからない」という企業担当者も少なくないでしょう。

内閣府の人的資本可視化指針では、以下のステップに沿って進めていくことを推奨しています。

人的資本開示をする上で重要なことは、自社の人的資本に対する考え方などの透明性を高め、外部のステークホルダーに対する信頼性を向上させることです。

自社の経営戦略の一環として、企業の成長やリスク管理の重要な指標として取り組んでいきましょう。

STEP1|人的資本経営に向けた方針を明確化する

人的資本開示に向けてまず取り組むべきことは、自社の人材戦略を明確にすることです。

明確になった情報を投資家や社員など、会社に関わるステークホルダーに開示することで、会社の競争力が高まり、価値を高めることができます。

ただし、人材に関する情報を出すだけでは意味がなく、しっかりと戦略や計画を立てる必要があります。

例えば、As-Is To-be分析などを用いて、現状と将来あるべき姿を明確にし、そのギャップを定量化することで、人材への課題やスキル不足領域を特定でき、人材戦略や計画を立てることができます。

【As is‐To be ギャップの定量把握(イメージ)】

また、人材戦略や計画を立てる際、具体的に考えるべき内容は次の例を参考にしてください。

【例|人的資本開示に向けて考えるべき内容】

  • ビジネスモデルや経営戦略をはっきりさせる
  • どんな人材が必要かを特定する
  • 人材を育てる方法を考える
  • 成果を評価するための指標や目標を決める

とは言え、はじめから完成度の高い人的資本の可視化を行うことは難しいです。反対に、完璧を求めるあまり開示が遅れたり、開示事項の充実をためらったりすることがあれば本末転倒となります。

そのためまずは、できるところから開示を行った上で、投資家からのフィードバックを受けながら、一連のサイクルにステップ・バイ・ステップで人材戦略やその開示をブラッシュアップしていくことが大切です。

出典:内閣府「人的資本可視化指針」

STEP2|人的資本への投資が会社の強みとなることを言語化する

方針を明確化できたら、次は自社の強みを言語化するフェーズです。

企業の人材投資と経営戦略をうまく関連づけて説明し、投資家に理解をしてもらうための方法を練っていきます。

投資家に理解してもらう方法を練るには、次の3つのポイントを押さえていくことが大切です。

【投資家の理解を高めるポイント】

  1. 自社の経営戦略と人材戦略の統合的なストーリーを描く
    ・経営戦略(会社が目指す方向)と、人材戦略(どんな人材に投資し、育成するか)を整理し、関連性を説明する。
    ・「なぜこの人材投資が会社の成長や競争力強化につながるのか?」をロジカルに示す。

  2. 定性的な情報と定量的な情報をセットで開示する
    ・定性的な情報は、自社の方針や考え方を開示する。
     例:「社員のスキル向上が事業成長のカギ」「管理職における女性の割合を高める方針」など
    ・定量的な情報は、方針や考え方に対する目標や指標を開示する。
     例:「研修投資額」「研修受講率」「管理職人占める女性の割合」「従業員エンゲージメントスコア」など

  3. 原則主義のフレームワークを活用し、人的資本への投資と経営戦略の関係性を整理する
    ・価値協創ガイダンス:企業価値向上に必要な要素を整理するフレームワーク
    「価値観」「長期戦略」「実行戦略」「成果・KPI」「ガバナンス」の5つの要素に沿って、人的資本への投資がどう企業戦略に貢献するのかを説明が可能。
    ・IIRCフレームワーク:6つの資本(人的資本、財務資本、製造資本、自然資本、知的資本、社会・関係資本)とビジネスモデルとの関係を整理し、企業価値とのつながりを説明が可能。
    ・両方のフレームワークを組み合わせて活用することが最も有用です。

投資家は「人材投資が会社の成長や競争力強化にどうつながるのか?」に関心があります。

ポイントを押さえた上で、経営戦略と人材戦略の統合的なストーリーを描き、具体的な指標やデータを組み合わせることが重要です。

例えば、有価証券報告書の様式では、

「1. 経営方針、経営環境および対処すべき課題等」
「2. サステナビリティに関する考え方及び取組」
「3. 事業等のリスク」

を記載するようになっています。

人的資本に関しては、「2. サステナビリティに関する考え方及び取組」あるいは「3. 事業等のリスク」に具体的な取り組みや目標を記載することになります。

ここで言及する内容が「1. 経営方針、経営環境および対処すべき課題等」に紐づいていると、ストーリーが繋がって読み手にとって理解しやすい内容と言えます。

STEP3|4つの要素に沿って考える

STEP2で練ったストーリーを4つの要素に沿って考えていきましょう。

人的資本開示を行うに当たっては、以下の4つの要素を意識して開示内容を検討することが大切です。

【人的資本開示内容を検討する上で重要な4つの要素】

  1. ガバナンス
    人材戦略の決定や監督の体制について(取締役会の議論や責任者の配置など)

  2. 戦略
    人材育成や働きやすい職場環境の整備が、事業や経営戦略にどう貢献するか

  3. リスク管理
    人材不足、スキルミスマッチなどのリスクをどう管理・解決するか

  4. 指標と目標
    研修受講率、離職率、女性管理職比率などの定量的な目標や成果

これら4つの要素は、投資家にとって馴染みやすい開示構造のため、理解されやすい内容を開示することができます。

「戦略」要素では、リスクや機会が経営計画や財務に与える影響が強調されていますが、「自社の戦略やビジネスモデル自体を明確に示す」ことについては、必ずしも指摘されていません。

具体的に、投資家が企業に対して情報開示を求めている事項は次のとおりです。

【投資家が求めている事項】

要素

投資家が理解を深めるために求めている事項

ガバナンス

取締役会が従業員関連事項について、
「どのように検討」し、「どのように評価・判断」しているか

戦略

・どのような従業員がどのようにビジネスモデルの成功に貢献をしているか
・従業員が戦略的資産として認識されているか、そしてどのような(人的)投資を受けているか
・従業員の価値を最大化するために、戦略にどのような変化が必要か

リスク管理

・従業員に起因するリスクと機会 はあるか
・企業がこれらにどのように向き合っているか

指標と目標

・より多くのデータや財務情報に影響を与える情報を含め、従業員関連のどのような情報が計測され、モニターされ、管理されているか

以上を参考に開示内容を精査することで、投資家やステークホルダーとの建設的な対話や、企業価値向上に貢献することができます。

STEP4|「独自性」と「比較可能性」のバランスをとって分かりやすくまとめる

人的資本開示においては「独自性のある開示事項」と「比較可能性のある開示事項」を適切に組み合わせ、両者のバランスを確保することが大切です。

上場会社による企業情報の開示は、自社固有のビジネスモデルや競争優位の源泉に関して説明することを目的とする一方で、企業間比較の材料となる側面もあります。

それぞれの開示事項の例は、次のとおりです。

独自性のある開示事項例

比較可能性のある開示事項例

・専門人材の育成方針
・企業独自の研修制度や人材投資の成果
・独自の評価基準やキャリアパス

・女性管理職比率
・従業員の平均年数や離職率
・人材育成にかけた投資額や時間

以上の例を参考に、
「独自性」の観点では、企業の取り組みや強みを強調することで他社との差別化を図り、
「比較可能性」の観点では、他企業との比較が容易な標準化されたデータを提供することを努めましょう。

どちらかに偏った情報開示ではなく、2つを適切に組み合わせ、バランスをとって分かりやすくまとめることで、ステークホルダーに理解しやすい内容となります。

人的資本開示の項目を検討する上で「価値向上」と「リスク」の観点整理も重要!

人的資本可視化指針に示された7分類19項目の開示事項は、「価値向上」と「リスク」の2種類に分類されます。

企業の戦略的な企業「価値向上」に向けた取り組みを表現する項目は、投資家からの評価を得ることができる内容です。

一方、投資家は企業へ投資する上で、リスクを正確に理解して評価したいというニーズがあります。それに答えるために「リスク」関連情報を開示する項目があり、これらを正確に開示することで、投資判断におけるネガティブな影響を防ぐことが期待できます。

開示項目がどちらに分類されるかのイメージは、以下のとおりです。

出典:内閣府「人的資本可視化指針」

イメージをご覧いただいたとおり、開示事項の中には「価値向上」と「リスク」の双方の観点が含まれている項目もあります。

例えば、企業がどのように従業員を育成し、スキルを高めているかを示す「育成」の情報は、企業が将来に向けて成長し続ける能力を投資家にアピールできるため「価値向上」を目的とした項目です。

また、「ダイバーシティ」「健康」は、2つの側面で捉えられる項目です。

ダイバーシティの推進や従業員の健康維持は、イノベーションや生産性の向上に直結するため、「価値向上」の目的となります。

しかし、これらを軽視すると、企業の評判が悪化したり、離職率の上昇や訴訟リスクを招いたりする可能性があります。これを防ぐための取り組みとして、情報を開示することで「リスク」マネジメントを投資家に開示することができるのです。

このように、自社がどの開示ニーズに対応して、当該事項を選択し開示をするのかを明確にしながら検討をすることが重要と言えます。

まとめ

この記事では、人的資本開示の義務化について詳しく解説をしてきました。最後に内容をまとめていきます。

2023年3月期決算より、大手企業に対して人的資本開示が義務化されました。

義務化の概要は以下のとおりです。

【人的資本開示義務化の概要】

開始日

2023年3月期決算以降

対象企業

有価証券報告書を発行している大手企業の約4,000社
義務化の項目
【サステナビリティに関する考え方及び取組】
※全企業対象

①人材育成方針
②社内環境整備方針
③1、2の測定可能な指標による目標および進捗状況
【従業員の状況】
※女性活躍推進法または育児・介護休業法に基づいて公表を行う企業が対象
④女性管理職比率
⑤男性育休取得率
⑥男女間賃金格差

情報開示が義務化された2分野6項目とは別に、内閣官房の非財務情報可視化研究会が公表した「人的資本可視化指針」において開示が推奨されている項目は次の7分野19項目があります。

【人的資本開示義務化により求められる7分野19項目】

分野

項目

人材育成

・リーダーシップ ​​​​​​​・育成 ・スキル/経験

エンゲージメント

・エンゲージメント

流動性

・採用 ・維持 ・サクセッション

ダイバーシティ

・ダイバーシティ ・非差別 ・育児休業

健康・安全

・精神的健康 ・身体的健康 ・安全

労働慣行

・労働慣行 ・児童労働/強制労働 ・賃金の公正性 ・福利厚生 ・組合との関係

コンプライアンス/倫理

・コンプライアンス/倫理

これらの項目は、開示の義務付けはされていないものの、従業員の状況や企業が人材に投資している内容を透明化するため、できる限り開示することが求められます。

とは言え、情報開示を進める上でどのように進めていけば良いか分からない人は、以下のステップに沿って進めてください。

【人的資本開示の進め方】

STEP1

人的資本経営に向けた方針を明確化する

STEP2

人的資本への投資が会社の強みを言語化する

STEP3

4つの要素に沿って考える

STEP4

「独自性」と「比較可能性」のバランスをとって分かりやすくまとめる

また、開示事項を検討する上では、「価値向上」と「リスク」の観点を整理することも重要です。

この記事が、人的資本開示の義務化に伴い、情報開示を検討している人の力になれることを願います。

株式会社LDcubeでは、人的資本経営を進化させるための独自の教育プログラムづくりや階層別育成カリキュラムの充実化にむけ、高品質な学習コンテンツや学習プラットフォーム、社内トレーナー養成支援などを行っています。お気軽にご相談ください。

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LDcube編集部
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株式会社ビジネスコンサルタント時代から約60年、人材開発・組織開発に携わってきた知見をもとに、現代求められる新たな学びについて、ノウハウや知見をお届けします。

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