セルフエスティーム(自尊感情)とは?
「セルフエスティームって何だろう?」
「セルフエスティームは、組織の生産性を高める鍵かもしれない」
近年、ストレス社会が注目されるなか、「セルフエスティーム」への関心が高まっています。
セルフエスティームとは、自分自身を価値あるものとして尊重する感覚です。心理学の概念であり、「自尊感情」の日本語訳が多く用いられています。
仕事の満足度やパフォーマンス、人間関係の質、心身の健康など、人生のあらゆる側面に、セルフエスティームの高さ(または低さ)が影響を及ぼすことが明らかになっています。
しかし、セルフエスティームを正しく理解している人は、多くありません。
本記事では、セルフエスティームの意味や類語との違いを解説し、その高さを測る尺度や公式を紹介します。
セルフエスティームを高める方法や、組織としての取り組みポイントについても触れ、知識だけでなく実践的にご活用いただけるよう構成しました。
自分自身はもちろん、大切な人やチームメンバーのセルフエスティームを尊重し、支えるためにお役立てください。
▼ 自己肯定感を高める方法については下記で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
▼セルフエスティームを高めるための研修プログラムについては下記ページで紹介しています。
目次[非表示]
- 1.セルフエスティームとは何か?
- 2.セルフエスティームの公式や測定尺度
- 2.1.ジェームズの公式
- 2.2.ローゼンバーグの自尊感情尺度(RSES)
- 3.セルフエスティームが与える影響
- 4.セルフエスティームを高める方法
- 4.1.「見栄や虚栄心」をなくす
- 4.2.「要求水準」を適切にする
- 4.3.「成功」を増やす
- 5.セルフエスティームを高める組織づくり
- 5.1.全員が自他の「尊厳」に対する意識を高める
- 5.2.SMARTの原則による目標設定を再認識する
- 5.3.承認と称賛の文化を育む
- 6.まとめ
セルフエスティームとは何か?
さっそく、セルフエスティームとは何か、以下で詳しく見ていきましょう。
セルフエスティームの定義・意味
冒頭でも触れたとおり、セルフエスティーム(Self-Esteem)とは、日本語では「自尊感情」と訳されることの多い、心理学の概念です。
エスティーム(esteem)は、“○○を尊ぶ、重んじる、尊重する” という意味の英単語です。“セルフ + エスティーム” で、「自己を尊ぶ」という意味になります。
ここでは、厚生労働省のサイトに掲載されている定義を引用しましょう。
【用語解説:セルフエスティーム】
自尊感情ともいい、自分自身を価値あるものとして尊重する感覚をいいます。基本的な価値を実感することにより、自分自身を信頼し、さまざまな事柄に前向きに取り組む意欲や満足感につながります。このような自己の尊重は、自分自身だけでなく、周囲の人々のありのままを受け入れる上でも重要となり、環境への適応や精神的健康と密接に関連しています。
セルフエフィカシー・自己肯定感・その他類語との違い
セルフエスティームは、自己に対する総合的な評価や感情を表す概念です。
一方、関連する概念として、「セルフエフィカシー」や「自己肯定感」があります。
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それぞれ文献や研究者によって多様な議論があり、断定的に論じることはできませんが、あえてわかりやすく違いを表にすると、以下のとおりです。
セルフエスティーム |
セルフエフィカシー |
自己肯定感 |
|
---|---|---|---|
原語 |
Self-Esteem |
Self-Efficacy |
自己肯定感 |
日本語訳 |
自尊感情 |
自己効力感 |
― |
意味 |
自分自身に対する全体的な評価や感情 |
特定の課題や状況に対処できるという確信 |
自分自身を前向きに好ましく受け入れる感覚 |
焦点 |
自己の価値や能力全般 |
具体的な行動や課題 |
自己受容 |
形成要因 |
過去の経験、他者からの評価、社会的比較 |
過去の成功体験、代理体験(他者の成功を目撃すること)、言語的説得(他者からの励ましや支持) |
無条件の愛、受容的な養育、自己実現 |
影響 |
メンタルヘルス、人生満足度、対人関係 |
動機づけ、パフォーマンス、挑戦的な目標設定 |
心理的幸福感、レジリエンス、対人関係 |
※諸説あるため、唯一の正解ではない点にご留意ください。
また、ほかにも心理学関連の類語として、以下があります。
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セルフエスティームの公式や測定尺度
続いて、セルフエスティームの公式や測定尺度について、見ていきましょう。ここでは次の2つをご紹介します。
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ジェームズの公式
アメリカの哲学者であり心理学者のウィリアム・ジェームズは、以下の公式を提唱しています。
セルフエスティーム = 成功(success) ÷ 要求水準(pretension) |
つまり、セルフエスティームは、成功の大きさに比例し、要求水準に反比例する、という考え方です。
「成功が大きいほど、セルフエスティームが上がる」ということは、感覚的にイメージしやすいかと思います。
一方、「自分が求める水準(願望・自負・見栄なども含む)が大きいほど、セルフエスティームが下がる」という点も、着目したいポイントです。
たとえば、同じ100の成功があったとしましょう。
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このように、成功を大きくするだけでなく、要求水準を小さくすることでも、セルフエスティームは高められます。この考え方は、禅などの東洋哲学で見られることを指摘する専門家もいます。
参考:Mizuho Hosogi et al.「Importance and usefulness of evaluating self-esteem in children」
ローゼンバーグの自尊感情尺度(RSES)
セルフエスティームを測る尺度としては、アメリカの社会学者であるモリス・ローゼンバーグが提唱した「自尊感情尺度(Rosenberg self esteem scale:RSES)」がよく知られています。
RSESは、セルフエスティームを測定する10項目からなる、自己記入式の尺度です。以下は Mimura & Griffiths(2007) による日本語版RSESです。
(1)私は、自分自身にだいたい満足している。
(2)時々、自分はまったくダメだと思うことがある。
(3)私にはけっこう長所があると感じている。
(4)私は、他の大半の人と同じくらいに物事がこなせる。
(5)私には誇れるものが大してないと感じる。
(6)時々、自分は役に立たないと強く感じることがある。
(7)自分は少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じている。
(8)自分のことをもう少し尊敬できたらいいと思う。
(9)よく、私は落ちこぼれだと思ってしまう。
(10)私は、自分のことを前向きに考えている。出典:内田知宏・上埜高志「Rosenberg自尊感情尺度の信頼性および妥当性の検討 : Mimura & Griffiths 訳の日本語版を用いて」
回答者は「強くそう思わない」「そう思わない」「そう思う」「強くそう思う」の4段階で評価を行います。
採点方法は、以下の点数で合計点数を算出します(評価が逆転している5項目は点数の付け方も逆転します)。
(1)(3)(4)(7)(10) |
(2)(5)(6)(8)(9) |
1点:強くそう思わない |
4点:強くそう思わない |
一般的な解釈の目安は、以下のとおりです。
0〜20点:低い |
RSESは、セルフエスティームを手軽に測れる尺度として、幅広く活用されています。
詳細な分析には専門家の助言が必要ですが、自分の現状を客観視したいとき、自己採点してみることで、自己理解が深まるでしょう。
参考:Rosenberg, M.「Society and the adolescent self-image」
参考:認定特定非営利活動法人カタリバ 「自己肯定感を診断できるチェック方法」
セルフエスティームが与える影響
セルフエスティームの高低は、人生のさまざまな領域に影響を及ぼすことが、多くの研究によって示唆されています。
ここでは、Ulrich OrthとRichard W. Robinsによる2022年の論文「Is High Self-Esteem Beneficial? Revisiting a Classic Question」の知見をもとに、セルフエスティームがどのような影響を与えるのか、以下3つの観点を抜粋してご紹介します。
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仕事におけるセルフエスティームの影響
セルフエスティームの高さは、仕事における満足度や成功、資源の獲得と関連することが、メタ分析によって示されています(Krauss & Orth, 2021)。
高いセルフエスティームを持つ人は、より責任のある自律的な仕事を求め、実際にそのような仕事に就く傾向が見られます。
また、高いセルフエスティームは人間関係の質を向上させるため、職場での社会的ウェルビーイング(良好な状態)を高めます。結果として、同僚や上司からのサポートを引き出し、仕事の成功につながると考えられています。
逆にセルフエスティームが低い場合には、以下のような影響が考えられます。
【セルフエスティームの低さが仕事に与える影響】
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以上のように、セルフエスティームの高低は、仕事のパフォーマンスや職場での適応に大きく影響を与える重要因子であるといえます。
メンタルヘルスにおけるセルフエスティームの影響
セルフエスティームが低い状態は、うつ病や不安症などのメンタルヘルス問題の発症要因としても、議論されてきました。
Sowislo & Orth(2013)による縦断研究のメタ分析では、セルフエスティームの高さと、抑うつと不安の症状の軽減の関連が示されています。
【セルフエスティームの低さがメンタルヘルスに与える影響】
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セルフエスティームを高めることが、メンタルヘルス問題の予防や改善に役立つ可能性が示唆されています。
身体的健康におけるセルフエスティームの影響
健康に関する自己・社会的絆モデルでは、セルフエスティームが社会的関係を介して身体的健康に影響を与えると考えられています(Stinson et al., 2008)。
その理由は、セルフエスティームが高い人は、社会に受け入れられて良好な関係を作りやすく、質の高い社会的サポートを受けられる可能性が高まるためです。
【社会的サポートの例】
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このような質の高いソーシャルサポートは、心血管系・内分泌系・免疫系に影響を与え、長期的に健康状態を左右すると考えられます。
以上、セルフエスティームが人生のさまざまな面に与える影響について概観しました。
同論文では、縦断研究の数はまだ十分ではなく、因果関係を確実に結論づけるためには、さらなる研究の蓄積が必要であるとも指摘されています。
出典:Ulrich Orth, Richard W. Robins「Is High Self-Esteem Beneficial? Revisiting a Classic Question」
セルフエスティームを高める方法
では、セルフエスティームを高めるためには、どうすればよいのでしょうか。
前出のジェームズの公式を再掲します。
【公式】 セルフエスティーム = 成功(success) ÷ 要求水準(pretension) |
この公式に基づくと、3つのポイントが見えてきます。
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以下で、それぞれ解説します。
「見栄や虚栄心」をなくす
1つめは「『見栄や虚栄心』をなくす」です。
なぜなら、見栄や虚栄心があると、要求水準が不必要に高くなってしまうからです。
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見栄や虚栄心で一時的な優越感を得られても、長期的には、セルフエスティームを低下させる要因になります。
【見栄や虚栄心をなくす具体的な方法】
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「要求水準」を適切にする
2つめは「『要求水準』を適切にする」です。
要求水準とは、自分自身に対する期待や目標のレベルを指します。
要求水準が高すぎると、その水準を超えるのが困難になり、セルフエスティームが下がってしまいます。
では、要求水準を下げるほど好ましいのか、といえば、そうとも言い切れません。要求水準が低すぎると、成長の機会を逃してしまう可能性があるためです。
そこで、自分に合った “適切な” 要求水準を設定することで、達成感を得ながら着実に成長できます。
【要求水準を適切に設定するための方法】
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「成功」を増やす
3つめは「『成功』を増やす」です。
前述のとおり、ジェームズの公式において、セルフエスティームは「成功」に比例します。
ここでいう「成功」とは、大きな達成だけを指しません。“日々の小さな進歩” や、“少しうまくできたこと” を含んでとらえることが重要です。
大きな成功を実際に増やすのではなく、「成功したと自己認識できる範囲を広げることで、成功を増やす」という視点が欠かせません。
自分なりの成功体験を積み重ねることで、セルフエスティームを高めていきましょう。
【成功を増やすための工夫】
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セルフエスティームを高める組織づくり
セルフエスティームは、個人の内面の問題と思われがちですが、周囲からのサポートによっても高められます。
ここでは、組織としてメンバーのセルフエスティームを高めるための3つのポイントを解説します。
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全員が自他の「尊厳」に対する意識を高める
1つめのポイントは「全員が自他の『尊厳』に対する意識を高める」です。
組織のメンバー全員が、自分自身と他者の尊厳を尊重することは、セルフエスティームを高める土台となります。
一人一人が自分の価値を認め、互いの存在を認め合うことで、組織全体にポジティブな雰囲気が生まれるのです。
【尊厳に対する意識を高める具体的な方法】
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*1:具体的に適合性の高い研修としては、HEP(ヒューマン・エレメント・プログラム)があります。
HEPは、アメリカの心理学者ウィル・シュッツ博士が開発したプログラムで、深い人間理解とセルフエスティームの向上に焦点があります。
HEPに関する詳細は、以下のページでご確認ください。
あるいは、eラーニングでの導入を検討される場合には、以下の講座が効果的です。
より良い人間関係を築く自己理解・他者理解コース①(マイクロラーニング)
より良い人間関係を築く自己理解・他者理解コース②(マイクロラーニング)
SMARTの原則による目標設定を再認識する
2つめのポイントは「SMARTの原則による目標設定を再認識する」です。
SMARTはよく知られた原則ですが、改めて、おさらいしたいポイントです。
前出のジェームズの公式からもわかるとおり、要求水準が高いほど、セルフエスティームは反比例して低くなってしまいます。
適切な目標を設定し、成功体験を積み重ねていくことが、組織のセルフエスティーム向上に欠かせません。
【SMARTの原則とセルフエスティームの関係】
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承認と称賛の文化を育む
3つめのポイントは「承認と称賛の文化を育む」です。
組織内で承認と称賛の文化を育むことは、メンバーのセルフエスティームを高める上で非常に効果的です。
一人一人の努力や成果を認め、積極的に称賛することで、メンバーは自分の価値を実感し、自信を持てるようになります。
【承認と称賛の文化を育むための工夫】
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承認と称賛の文化が根付いた組織では、メンバーは自分の価値を実感しやすくなり、セルフエスティームが高まります。
リーダーがお手本となって、積極的に称賛を行うことが、承認の文化を育む鍵となるでしょう。
まとめ
本記事では「セルフエスティーム」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
セルフエスティームとは、「自尊感情」とも呼ばれる自分自身を価値あるものとして尊重する感覚です。
セルフエスティームにおける代表的な公式・尺度として、以下を解説しました。
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セルフエスティームの高さ・低さが与える影響として、以下をご紹介しました。
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セルフエスティームを高める方法として、以下があります。
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セルフエスティームを高める組織づくりのポイントは、次のとおりです。
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セルフエスティームは、個人の幸福と成功、そして組織の活力として、欠かせない要素です。
一人一人が自分らしく輝ける社会を目指して、セルフエスティームについての理解を深め、実践していきましょう。
株式会社LDcubeでは、セルフエスティームを高めるための研修プログラムや、研修プログラムのトレーナー養成のご支援をしています。組織や個人のセルフエスティームを高めたい場合にはお気軽にご相談ください。
また、研修プログラムだけでなく、eラーニングプログラムの提供も行っています。研修プログラムと合わせて受講いただくことで効果を高めることができますが、まずはeラーニングから手軽に学習を始めたいというニーズにも対応可能です。
無料のデモIDなどの発行も行っています。お気軽にご相談ください。
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