武庫川女子大学様
HEP導入事例

大学生が自己肯定感を高める講座を受講
ねらいと成果、受講前後の変化とは

武庫川女子大学

兵庫県西宮市にキャンパスを置く武庫川女子大学は2019年に開学70周年を迎えました。12学部19学科(※2023年4月から)の総合女子大学として自立した女性を育んでいます。
HP:https://www.mukogawa-u.ac.jp/
経営学部:https://sba.mukogawa-u.ac.jp/

お話をお伺いした皆さま。
左から武庫川女子大学経営学部 福井誠学部長・小林和葉さん(2年)・安田美波さん(1年)・鳴神希実さん(3年生)※取材時点

 

今、若手社員の定着率とモチベーション向上は、多くの企業を悩ませている課題です。
その中で、深くモチベーションと関係する「自己肯定感」の向上に関心が高まっています。
しかし、価値観が多様化する現代社会において若手社員の自己肯定感を高めるためにはどのような施策が有効なのでしょうか。

好事例が、兵庫県の武庫川女子大学にあります。
同大学の経営学部が、産学連携プログラム「実践学習」を企画し、
企業や自治体などと協働し多種多様なインターンシップやプロジェクトを行っています。

その一つとして、LDcubeも提供している社会人向け「自己肯定感を高める講座」を学生向けにリメークし実施しました。
その結果、実際に学生の自己肯定感が高まったことがわかりました。
本記事では、企画した学部と、受講した学生にインタビューした内容をレポートします。
※情報は2023年のものです。

 


学部長インタビュー

経営学部の特徴、今回の取り組みと成果
厳しい境遇であっても自分の人生を再設計できる、を目指して

学部長の福井様に学部の特徴と今回の取り組みと成果について、お話をお伺いしました。

-まず、武庫川女子大学経営学部について教えてください

武庫川女子大学は、もともと「女性の自立」を目的として1939年に創立した大学です。多様な専門職に就くための国家試験の準備をする学科が多数ありました。しかし、人生100年時代と言われるようになった現在、100年を一つの職業だけで生きていくのは難しい。女性特有のキャリアの断絶も乗り越え、次の人生を開拓できるような人を養成したいと考え、2020年4月に新しい学部を設立しました。それが経営学部です。

何歳であっても、世界のどこにいても、厳しい状況にあっても、それでも自分の人生を再設計できる。そんな意欲と能力を持つことが大事だと学生には伝えています。そのためのベースを大学時代につくってほしい。ですから、カリキュラムも、目的に適合するために必修科目の他に実践科目(インターンシップ等)を設けています。

キャリアを変えるときに、自分で頑張るとか学校に行くというのは一つの方法です。しかし、そうではなく、人を巻き込みながら自分がやりたいことを実現することが重要です。もちろん、人を巻き込むと逆に巻き込まれることもあります。しかし、そこで大事なのは「人に巻き込まれることを恐れるな。自分だけでやろうと思うな」ということ。このコンセプトを実践科目で学んでもらうことを狙いとしています。これが学部の最大の特徴です。

3年間コロナで人との関わりを制限された世代

‐自己肯定感を高める講座をインターンシップに導入したときの課題は?

二つありました。
一つはコロナの影響です。学部設立時から学校は閉鎖となり、登校をすることもなく、5月にはリモート授業へ移行しました。学生生活の喪失ともいう事態で、人との接点が持ちづらい時期が続いたので、対人関係や社会性の成長のための対策を考えました。
もう一つは、学生の自己肯定感が低いかもしれないという感覚です。関西は女子大も多いですし、経営学部で見たときも近隣に有名な共学の大学もあります。比較しやすい環境に自己肯定感が低い一因があるのかもしれません。

セルフエスティーム(※)というテーマは、この実践科目の趣旨にも合致すると思いました。それだけではなく、就職のときにも役立ちますし、経営学部立ち上げ時のコンセプトに非常に合致すると考え導入しました。加えて言えば当時、遠隔でも実施可能なことも大きかったです(図1)。

実施内容(2022年度)

図1 実施内容
自己肯定感を高める、PR動画のシナリオを作るという内容の講座。経営学部が実践学習で用意するプロジェクト数は年間80以上にも及ぶ。
学生は第2希望まで申請できる。

(※)セルフエスティーム:自分を大切にし、自分を誇りに思う気持ち。『ポジティブな自己概念』 
詳細:https://ldcube.jp/blog/self-esteem191


自己肯定感「高い傾向」の認識35%→86%へ

‐実施後の結果をご覧になっていかがでしょうか

学生が実際に受講して、変化を実感しているのはすばらしいことです(図2)。
実践学習ではインターンシップ含め3年次までに四つのプロジェクトを自分で考え、経験していきます。その過程で、自分自身がどのように変化してきたかをナラティブ(物語)に整理することがとても重要です。これは、将来キャリアを変えるときに役に立つと考えています。そのためにも、はた目から見た客観的な変化も大事ですが、自分の中での変容を実感することが大切です。
 

図2 受講前後のアンケート結果(2022年度)
「高いと思う」「どちらかというと高いと思う」の回答の合計値が、講座1回目終了時点の35%から、8回目終了時点では86%に向上した。


学生インタビュー

「自己肯定感を高める講座」を受講して
初めての挫折で「自己肯定感」が必要だと気付いた

受講した3名の学生の皆さんに「講座を選択したきっかけ」や「受講後の変化」などについて、お話をお伺いしました。

‐講座を選択したきっかけ・理由は?

鳴神希実さん(以下:鳴神):私は「自己肯定感」という言葉にひかれて受講しました。私が2年生の夏のとき、取り組もうと思ったのにあることを1日で挫折してしまった経験があって。それが大きなきっかけでした。

自分は物事を途中で投げ出すタイプではないのですが、初めて物事を途中で辞めることを決断したときだったので、今思うと自己肯定感が下がっていたのだと思います。そんなときにこの講座を見つけて、受講してみようと思いました。

小林和葉さん(以下:小林):私は、常に自分に自信が無かったり、人と比べることで落ち込んだり悩んだり、つらい思いをすることがありました。その理由が「自己肯定感が低い」ことなのかと思い、自己肯定感を上げるために、自分を好きになるためにはどのような方法があるのかを知りたくて受講しました。

 

‐何かきっかけの出来事があったのですか?

小林:大学生になり始めたアルバイトでのことです。大所帯(100名以上)のアルバイトで、人と関わることが増えました。「あの人はできるのに私はできない」と落ち込むことが増え、自分に自信を持ちたいと思いました。  

安田美波さん(以下:安田):私は、常に周りを気にし過ぎていて、自分に自信がありませんでした。周囲から褒めてもらっても「自分なんか」と否定的に思ってしまうことがありました。自己肯定感を高めるヒントを得たり、自分に自信を付けたり、自分を認められるように少しでもなれたらいいなと思って、選択しました。


自己肯定感を高める方法は人それぞれ

‐講座内で何が印象に残っていますか

安田:講座で印象に残ったのは、自己肯定感を高めるアイデアについての検討でした。課題は、20個のアイデアを考え出すことでしたが、私はなかなかアイデアが浮かびませんでした。しかし、グループでアイデアを共有したところ、他のメンバーが考えていた自分が思い付かなかったアイデアに驚かされました。

自己肯定感を高める方法は人それぞれで、決まっていないことに気付き、非常に興味深かったです。また、アイデアを出すことも大変でしたが、そのアイデアが「なぜ自己肯定感を高めるのか」という理由を考えることが、さらに難しく感じました。しかし、そのおかげで自己肯定感について改めて考えることができたので、とても有意義な講座だったと思います。

‐ご自身の自己肯定感を高めるポイントは何でしたか?

安田:この講座の中でも実感しましたが、やはり自分の意見を認めてもらうタイミングが、とても自己肯定感が上がりますね。これからはもっと自分で自分を認められるようになっていきたいです。

小林:私は、自分史(※)を考え、グループで共有する授業が印象に残っています。私は特に中学時代の自己肯定感の上がり下がりやターニングポイントを発表しました。他の人の発表を聞いて、私たちがそれぞれ違う人生を歩んできていることを改めて実感し、他者を知ることの面白さを感じました。自分史を共有することで、他者の経験や感情に共感したり、新たな視点や考え方を得たりすることができ、自己肯定感を考える上でも重要だと気付きました。
(※)過去の自分を振り返り、自己肯定感の上がり下がりをグラフで表現するもの

鳴神:講座の最後に行われたプロモーション提案の実習が印象的でした。この実習では、この講座が必要な人を考えることが課題でした。自分たちの班では就活生や高校生をターゲットとして検討していました。しかし、他のグループでは自分の容姿に自信を持ちたいと思っている人などをターゲットにしていました。そこで、自己肯定感が必要な人はもっと多岐にわたることに気付きました。さまざまな要因が自己肯定感に影響を与えることを知り、自己肯定感の考え方の幅が広がり、より深く理解することができました。


人を頼りながら成長していきたい

‐受講後、日常的に意識するようになったことはありますか

鳴神:私は、1年生のときから塾のアルバイトで教室の代表としてエリア会議に参加していました。当時、会議などでも自分がやらないといけないと思うあまり、仕事を一人で背負ってしまうことがよくありました。しかし、この講座の後は、自分の価値観に気付いたこともあり、上級生を頼ってみるなど、人の頼り方が分かった気がしました。私は責任感が強いタイプで、当時は自信が無いことでも任せられたらやる、という考えを持っていました。この講座を受講して、人に頼ること、人と一緒に物事を成し遂げることの大切さを学びました。

‐周囲の反応はどうでしたか

鳴神:「自分が仕事をすることで助かる」という人もいれば「全て任せてしまって申し訳ない」と思う人がいることにも気付きました。人と一緒に物事を進めることは、お互いの気持ちを楽にすることになると思いました。自分一人で無理をするのではなく、人を頼りながら成長することも大切だと感じましたね。

小林: 私は人と比べ過ぎないようになりました。自分ができないことだけに目を向けるのではなく、人ができないことでも自分にはできることがあるかもしれないと思うようになりました。また、講座中に知った方法で、自分が悩んでいること、なぜそれに悩んでいるのか、悩みを解消するにはどうすればいいかを書きだすことを日ごろから意識しています。そうすることで悩み続けるのではなく、次に何をすればいいかを考えられるようになりました。

‐アルバイトでは何か変化はありましたか

小林:はい、積極的に動けるようになりました。お客さまへのあいさつをしたり、レジをしたり、商品を出したりとか「他の人がやってるからいいや」と思わず「以前はできなかったこともやってみよう」と思えるようになりました。

安田:以前は心配性で、必要以上に物事を考えてしまう性格でした。しかし、講座を受けてからは、ポジティブな視点で物事を捉えることができるようになりました。また、人から褒められたときも以前よりも素直に受け入れることができ、自分自身も相手の良いところを伝えるように心掛けるようになりました。こうすることで、信頼関係を築けると感じています。自分の気持ちを言葉で表現することが大切であることを学びました。


SNS時代「自己肯定感」を知り、物事の見え方が変化した

‐同世代の方が自己肯定感を高める講座を受講することに、どのような意味があると思いますか

小林:自己肯定感は他者の影響を受けやすいと講座で教えていただきました。私自身、日常的にSNSを利用していますが、他の人の投稿を見ることで、無意識に自己肯定感が上がったり下がったりすることがあります。

例えば、先輩の就活情報を見て自分が焦ってしまったり、友達の楽しそうな投稿を見て自分が落ち込んでしまったりすることがあります。人の影響を受け過ぎることなく「そんなに落ち込む必要は無いよ」と同世代の方に伝えたいと思います。

同世代の方にはまず「自己肯定感」という考え方を知ってもらうことが大切だと思います。SNSの内容の受け取り方も変わり、他者から影響を受けていることを自覚できると思います。

鳴神:就活生にはぜひ受けていただきたいです。私も今、就職活動をしていますがメンタル的にきついこともたくさんあります。選考の中で人事の方からフィードバックをいただくこともあるのですが、人によって違うことをフィードバックいただくことがあります。そんな中で自分の強みは何なのか、自分自身について考える機会は必要だと思います。私も道半ばですが、3年生の早い時期に人の評価に左右されない軸を見つけてほしいと感じます。

安田:講座中に受けた自己診断は、同世代の方にぜひ受けていただきたいと思います。自分を客観的に見ることができるので、自分の理想の姿と現状の姿を認識することができました。自分の理想の姿に近づくために何が必要か考えるきっかけになると思いますね。社会人になったときに自己肯定感が下がることがあると思います。そんなときに自己肯定感の考え方を思い出すことで自分の気持ちを整えることができると思います。

鳴神:関連して言えば、今回の講座で取った自己診断は、他の診断と違ってなりたい自分が分かると思いました。いくつか経験した他の自己分析は、今の自分のことしか分からないことが多かったので。それもいいですが、やはり自己分析で終わらないで、自分がありたい姿や自己肯定感を高めるためのヒントまで分かったのが良かったですね。

‐皆さん、ありがとうございました。


特別対談

学部長の福井様とLDcube取締役会長の園田が「これからの若者が社会で生きていくためにどのようなスキルが求められるか」について意見を交わしました。

園田(左)と福井学部長(右)


難しくなる日本社会、自分を客観的に見ることの重要性

福井誠(以下:福井):日本の社会はだんだん難しくなっていると感じます。私が子供の頃は、万博だとか日本が成長していく時代でした。決して全てが良い時代とは思わないのですが、希望がありましたよね。その希望が無くなってきた時代、自分がどのように生きていくかが分からなくなっているのが今の時代だと思います。そんな時代だからこそ、これから社会に出る自分を客観的に見るということは大切ですね。

園田伸久(以下:園田):そうですね。つくづく思うのは「自分自身のセルフエスティームをどのように扱うか」ですね。人間は、自分の自己肯定感、すなわちセルフエスティームが低いときに相手を攻撃してしまうことが分かっています。それが今の日本の課題、虐待、いじめなどにつながっています。そのような課題を解決するためには人間心理のメカニズムまで考える必要がありますよね。

福井:それは組織内、家庭内、社会集団においても同じですよね。どこでもその問題が起こる可能性がある。これまでのように家庭、会社の垣根が無くなってきていますよね。

園田:無くなってきています。

福井:そうすると、先述したように人を巻き込みながらコミュニティーをつくっていく、という考え方になっていく。しかし、そうなったときにコミュニティーで足の引っ張り合いをすると本末転倒ですよね。

園田:おっしゃる通りですね。

福井:だからこそ自己肯定感は、より重要になっていくのではないでしょうか。


誤解される自己肯定感 正しい理解が道を開く

福井:この難しい時代の中では、一歩踏み出した経験を繰り返しながら変化していく必要があると考えます。コロナ禍の時期は、人との接触が制限されました。孤独で折れそうな精神状態のときに、無理やりでも「自分は大丈夫だ」と思い込もうとする様子が学生にも見えました。でもそれは自己肯定感ではなく、強がりです。

そうではなくて、良いことも悪いことも含めて、自分をありのままに受け入れることが自己肯定感の本来的な意味です。それが人生において、自分自身や周りの人々を巻き込む力につながります。だからこそ自己肯定感については学生に正しく理解させたい。若者はもちろん、今の社会を生きる人にとっても役に立つのではないでしょうか。

園田:セルフエスティームを理解して、感情を自分で扱えるようになることが大切ですね。社会課題を解決していくことにもつながると思いますので、ますます自己肯定感を向上するプログラムを世の中に広げていきたいと考えています。引き続きよろしくお願いします。

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